生成AI・AI活用
生成AIは「人手不足」をどう補えるか?中国のマンション管理で導入したAIデジタルヒューマンの事例
中国・広州の住宅管理会社向けに開発した、RAGとAIデジタルヒューマンによる住民案内の事例から、生成AIが人手不足をどう補えるかを解説します。
日本では、多くの業界で人手不足が課題となっています。
生成AIというと、ChatGPTのような文章生成サービスをイメージする方が多いかもしれません。しかし、生成AIの価値は「文章を書くこと」だけではありません。
企業が持つ知識や業務情報とAIを組み合わせることで、これまで人が対応していた問い合わせ業務の一部を、24時間提供できるサービスへ変えることもできます。
今回は、2025年に中国・広州市の住宅管理会社向けに開発した、AIデジタルヒューマンを活用した住民向け案内システムの事例をご紹介します。
数十棟の高層住宅を支える管理サービス
対象となったのは、中国・広州市にある大規模な住宅団地です。
敷地内には数十棟の高層住宅があり、多くの住民が生活しています。
当然ながら、管理会社には日々さまざまな問い合わせが寄せられます。
たとえば、
- 物业費など各種料金について
- 駐車場や駐車料金について
- 消防・防災について
- 管理スタッフの当直・対応時間について
- 設備故障や修理依頼について
- その他、日常生活に関する管理上の問い合わせ
などです。
こうした問い合わせの多くは決して複雑なものではありません。
しかし、住民が必要とするタイミングは営業時間内とは限らず、夜間や休日にも問い合わせは発生します。
一方ですべての問い合わせに人間のスタッフが24時間対応しようとすれば、多くの人員とコストが必要になります。
そこで考えたのが、AIを住民サービスの一次窓口として活用する仕組みでした。
RAGで「この住宅団地について答えられるAI」をつくる
一般的な生成AIは、インターネットなどから学習した幅広い知識を持っています。
しかし住民が知りたいのは、一般的なマンション管理の知識ではありません。
「このマンションの駐車料金はいくらなのか」
「設備が故障したら、どこに連絡すればいいのか」
といった、その住宅団地固有の情報です。
そこで、このプロジェクトではRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)の仕組みを利用して、管理会社が持つ情報から住宅団地専用の知識ベースを構築しました。
知識ベースには、物业費、駐車場、消防、当直、設備故障、修理など、住民サービスに必要となるさまざまな情報を整理して登録します。
住民から質問を受けると、AIはこの知識ベースから関連情報を検索し、その内容をもとに回答します。
重要なのは、単に「賢いAI」を導入することではありません。
企業や施設が持っている正しい情報を、AIが利用できる形に整理すること。
実際の業務で生成AIを活用するうえでは、この部分が非常に重要になります。
チャットではなく「人と話す」ように質問できる
もう一つ、このシステムで重視したのが操作方法です。
住民全員がスマートフォンでAIチャットを使うことに慣れているとは限りません。
そこで住宅団地内に立式のタッチディスプレイ型端末(kiosk)を設置し、画面上にデジタルヒューマンを表示しました。
住民はキーボードで文章を入力する必要がありません。
端末の前で、
「駐車料金について教えて」
「設備が故障した場合はどうすればいい?」
と普通に話しかけることができます。
その裏側では、大きく3つの技術が連携しています。
ASR(音声認識) 人が話した言葉を認識し、AIが処理できる情報に変換します。
生成AI+RAG 質問の意味を理解し、住宅団地の知識ベースから必要な情報を探して回答を生成します。
TTS(音声合成) 生成された回答を自然な音声に変換し、デジタルヒューマンが住民に説明します。
つまり、
聞く → 理解する → 情報を探す → 答える → 話す
という一連の流れをAIが担当します。
住民から見ると、複雑なAIシステムを操作している感覚はありません。
画面の中にいる案内スタッフに話しかけるような体験になります。
AIの目的は「人をなくすこと」ではない
この仕組みを導入することで、管理会社は住民から繰り返し寄せられる問い合わせの一部をAIに任せることができるようになりました。
結果として、問い合わせ対応に必要となる人的コストを大きく削減できます。
同時に住民側にもメリットがあります。
営業時間を気にすることなく、必要なときに質問できるからです。
ここで重要なのは、AIですべての管理業務を置き換えることではありません。
設備トラブルの現場対応や、住民同士の問題、緊急性の高い案件など、人間が判断・対応すべき仕事は当然残ります。
一方で、
「何度も聞かれる質問に何度も人が答える」
という業務まで、必ず人間が担当する必要があるでしょうか。
AIが一次対応を担当し、人間は人間にしかできない判断や対応に集中する。
生成AIの企業活用では、このような役割分担が現実的だと考えています。
日本のマンション管理にも応用できる
このプロジェクト自体は中国で実施したものですが、日本にも十分参考になる部分があります。
むしろ人手不足が長期的な課題となっている日本では、同様の考え方を活用できる分野は多いでしょう。
たとえば、
- マンション・集合住宅
- オフィスビル
- 商業施設
- ホテル
- 病院・公共施設
- 工場
- 学校や大学
など、**「施設固有の情報について、利用者から繰り返し質問を受ける場所」**は数多く存在します。
そして必ずしもデジタルヒューマンや専用kioskを設置する必要もありません。
同じ知識ベースを使って、
WebサイトのAIチャット、スマートフォン、音声案内、施設内端末
など、利用環境に応じたインターフェースを提供することもできます。
生成AI活用で重要なのは「AIを入れること」ではない
2025年のこのプロジェクトを通じて改めて感じたのは、生成AI導入の目的を「AIを使うこと」にしてはいけないということです。
先に考えるべきなのは、
企業のどこに繰り返し発生する業務があるのか。 どの情報を整理すればAIが対応できるのか。 AIに任せる部分と、人間が担当する部分をどう分けるのか。
という業務そのものの設計です。
生成AI、RAG、音声認識、音声合成、デジタルヒューマン。
技術はそのための手段にすぎません。
人手不足の時代だからこそ、人間を単純にAIへ置き換えるのではなく、人とAIがそれぞれ得意な仕事を担当する仕組みをつくることが、これからの企業にとって重要になっていくと考えています。